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アグリテック・イノベーション−2018/10/15



アグリテック・イノベーション
 :日本を支える農業イノベーション

最近、日本農業の現状を知る機会があった。世界無形文化遺産に登録された和食文化と安全で豊富な食材を誇る日本であるが、日本の狭い土地や気候の制約上、また行政等の農家支援の結果として農作物の栽培に化学肥料を多用する国でもある。1ヘクタール当たり20sに近い化学肥料を使う世界でも図抜けた農薬使用国であり、熊本地震の時、被災地支援のためにと台湾の業者が果物を大量に輸入したものの基準値を超える残留農薬のため検疫で全て廃棄したという話も聞く。

農薬使用によって形状が整い手頃な値段の野菜果物が主流のため、日本の有機農業の耕作面積は全耕作面積のたった0.27%(約1万ha)、農家は全農家の0.5%に過ぎないと聞いて更に驚いた。

オリンピックまであと2年弱。ロンドンオリンピックでは、選手村で提供

できるのは「高い安全性のもと、環境に配慮して生産された認証取得済みの食材」に限定、有機栽培を優先すると規定に明記されている。東京オリンピックでも同様の基準が求められるが、通算1400万食とも推計される食材を、全て日本産の有機食材で賄うのは困難。そのためオリンピック基準を満たす食材の海外輸入に頼るか、日本で提供可能な食材基準を認めるのか未だ方向が見えていない。

国もこの事態に際して、有機農業を拡大する手を打っている。就農者補助金制度、有機指導員・センター設置、有機農業マニュアル、全国有機農業コンテスト、消費者啓蒙など涙ぐましい努力だ。

ただ、有機農業に変えるための土壌の改良や堆肥作りには手間と時間がかかり、狭い農地では病害虫被害が多い割に低収量、高価格で売り先も限られる。大手小売りも今までの安全食材神話からの転換に消費者の様子見の状態。

待ったなしの状況だが、世界に冠たる発明国日本らしく土壌も化学肥料も必要としない画期的な有機水耕農業技術が生み出されている。

通常の有機農業で土壌に加える、植物の根に栄養分を運ぶ「菌根菌」という有益微生物を世界で初めて水耕基盤に定着させ、かつ特殊チューブで根の部分を20℃程度に常温維持する技術で栽培ハウス全体の温度管理なしで植物の育成を早めることに成功した。ハウス栽培で病虫害を避け、高収穫かつ健康に安心な有機栽培を実現する画期的技術として米国を含む特許が成立しつつある。

現在の有機農業への国主導の転換策は、短期的な成果を挙げにくく農家の負担を強いる。固定電話網を持たない発展途上国でもあっという間に携帯電話サービス網が普及したように、2020年に向けた成果を挙げるための画期的農業技術の導入の方が早道ではないか。元来農耕地が狭い日本で、準備期間や手間もかからず、企業的な参入余地があり、面積当たり高収穫を得られ、価格も妥当な有機水耕栽培を支援するのであれば多くの若者やビジネス開拓者が農業に参入するのではないか?

有機水耕栽培やAIを活用した植物工場といったアグリテックと称すべ き先進的農業技術や食材の鮮度維持技術が日本で続々と発明されている。日本の農業は、従来から培ってきた土壌栽培方法や基盤に固執せず、革新的な技術を柔軟に取り入れ、全く新たな国際競争力のある農業基盤を構築することが求められているのではないか。日本と同じ小国であるオランダは国を挙げてIT化された農業を推進し世界第2位の農産物輸出国に躍り出ている。オリンピック対応をチャンスと捉えたブレークスルーを期待したい。(2018/10/15)