日本発の技術・サービスを世界へ

グランドチャレンジ−2017/12


(1)先日、あるベンチャーの創業者と会った。

 電波振動により水の分子サイズをコントロールする調理用揚げ物機を開発して最近テレビでも話題になっている社長である。その揚げ物はおいしく且つ油の吸収も少なくてヘルシー。油の飛び跳ねもほとんどなく短時間で揚がり、従来不可能だった食材メニューも可能で料理人から大きな支持を得ている。レストラン経営者から見れば経費も抑えられることもあって、発売以来2年弱で1200店が採用し、業界賞も得ている。社長は、この独自の水分子制御技術を活用して魚などのなま物が腐敗せずに新鮮保存できる機器も完成させている。食の生産・物流・保存・廃棄の課題を温度以外の要素で世界で初めて解決し、更には医療やエネルギー、環境などの分野で世界に貢献したいと意気軒高である。溢れんばかりの社長の情熱と幾多の挫折を乗り越えてチャレンジし続けてきた精悍な顔に接し、久しぶりに爽やかな興奮を禁じえなかった。


(2)平成も今年で最後の年となる。

 経済的には失われた20年とも言われ、世界を変える技術革新も生み出してこなかったが、この30年間は、日本史上かってない豊かで安全な社会を実現したことも事実である。世界から見れば所得格差もそれほど広がらない中で、日本独自の文化や習慣、暮らしやすさと安心・安全、規律のある社会。日本人が当たり前と思っている技術や製品が世界でクールジャパンとして評価され、世界市場につながることで明日も今の豊かさは続くのではと人々が思っても無理ないかもしれない。ただ、その豊かさの代償として、経済活力のみならず、社会の隅々に至るまでチャレンジ精神が失われていることも又事実である。大企業も全く未開の分野に進出するより、先行企業がいないか目を凝らし、だれもやっていない市場規模が不明の分野は避けるといったリスク回避に終始する。リスクを取り自ら市場を創るマーケティングに乗り出す企業は極めて少ない。また若者の間で英米トップクラスの大学への留学希望者が激減中。わざわざ海外に苦労しに行かなくても、日本の大学を出て安心な企業に就職した方が人生安全といった風潮が支配的という。


(3)現在世界は、第4次産業革命を迎える時期にある。

 あらゆるものがインターネットに繋がり(IOT)、人工知能(AI)が高度化し、車の自動運転やドローン配送、フィンテック決済、自動翻訳、エネルギーや環境対応、脱炭素社会対応の仕組などの世界共通の課題(グランドチャレンジ)に対して、世界各国が独自の支援策を工夫して生活や社会を大きく変える動きが進んでいる。世界からは日本の技術への期待が高まる中、日本の政府や企業は今までの安心安全を失うまいとこうした変化に極めて臆病である。日本発の浮揚型風力発電装置は10年かけて社会実証実験用の一台が認められただけと聞く。日本の技術者をトップランナーとしてチャレンジさせるために、旧来の規制の改廃や新ルールを作って行かないと、豊かな社会どころか、旧世紀のマーケットや技術の改善に固執するだけの後進国になってしまう。


(4)アップル社の創業者であり、敬服する日本技術を多く搭載してiPhoneを世界に送り出したスティーブ・ジョブス氏が、スタンフォード大学の卒業式で贈った言葉がある。

 ”Stay hungry, Stay foolish” 「いつも現状に満足するな、チャレンジし続けろ、常にハングリーさを忘れるな。」「皆から認められるような利口者になるな、信念を貫いて愚かであれ。」ということであろう。志ある個人や企業が「グランドチャレンジ」に正にfoolishに取り組める、挫折してもその経験を生かした再チャレンジを支援奨励する仕組が今の日本に必要なのではないか。1000万人の団塊世代が年金生活に安住せず、集団となってその事業経験やノウハウをこうした企業や個人に提供する仕組みが遂に平成最後の年に立ち上がる。これが筆者の初夢である。(2017/12/18)