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日本発の再生医療研究の現在、今必要なことは何か−2017/3


「再生医療」という言葉からどのようなことを想起するだろうか。 多くの人が「京大山中教授のiPS細胞(多能性幹細胞)から様々な人間の臓器や器官を再生する治療である。人体の様々な器官が再生できるようになる」と答える。ノーベル賞受賞もあり、国も巨額の研究費を投じ支援しているが、夢の治療の実現はスタートしたばかりで、一般市民からすれば将来是非とも実現してもらいたい治療という位置付けに見える。


(1)「組織工学」再生医療の研究機関TWIns

 東京の 新宿区河田町にTWInsという研究施設がある。ツインズ(双子)という呼称の通り、東京女子医科大学と早稲田大学、2大学の共同研究施設であり、正式には先端生命医工学研究施設の略称である。日本では私立大学の研究所ということもあり、目立たず報道されることも少ないため一般には余り知られていないが、「日本発の細胞シート工学により最先端の再生医療研究・治療開発をリードする拠点」として世界が注目している著名な存在である。

 TWInsが手がける再生医療は、「心臓まるごと再生する」といった夢の治療ではないが、生体に接着する特殊な細胞シートやその治療を実現するための関連デバイスなどの開発を行うことにより、これまでの治療では治せなかった様々な器官修復や組織再生を既に7器官で実現してきている。心臓―拡張型心筋症、眼―角膜上皮、食道―食道ガン切除後対応、膝関節―硝子軟骨再生、歯―歯周病の組織再生、中耳壁―真珠腫切除後対応、肺―気胸対応など。勿論、TWInsが単独で実現した訳ではなく大阪大、慈恵医大を始め国内外の大学病院の献身的協力の賜物であるが、TWInsが「細胞シート工学」の発信地として旗を振り、関係者を鼓舞し、研究ノウハウを提供し、実用化を指向し続けたことが、これらの実現に大きく貢献したことは疑うべくもない。スウェーデンのカロリンスカ研究所はノーベル生理・医学賞の審査委員会で有名だが、細胞シートによる食道再生医療を開発したTWIns岡野光夫教授に最大の敬意を払い自国でも同治療を成功させている。昨年スウェーデン国王が来日した際、わざわざTWInsを訪問したのはそうした表れでもあろう。


(2)医工連携と先見的リーダーシップ

 TWInsがユニークなのは、細胞シート工学という世界が評価する基本技術の発信地というだけではなく、研究者から技術者、医師、薬事の専門家など外部も含め様々な専門人材を登用しクロスオーバーの合わせ技を発揮させるリーダーシップで運営してきたということであろう。治療に使うのに最適な細胞を選び、科学的妥当性を証明し、医師が納得する治療方法を実現するには本格チームプレーが必要である。材料として使う細胞でも、心筋再生は足の筋肉の細胞だったり、眼の角膜や食道の再生には口の粘膜細胞。当然、iPS細胞も適合する組織に使う。

大学研究機関で「医工連携、産学連携の必要性」が謳われているが、日本の一私立大学の研究機関がグローバルに医工連携を実現して続々治療開発の成果を挙げているという稀有な例である。


(3)世界の患者のために

 TWInsのここに至る活動と成果は、率いたリーダーの明確なビジョンと患者に治療を届けたいという情熱、そしてそれを国が10年に及ぶ拠点形成予算で支えた賜物と言える。TWInsの今後の目標は、更に新たな器官の治療開発を実現すると共に、世界の患者や医療機関、政府や投資家などに、夢ではない再生医療技術が存在することを知らしめ、安全で有効な細胞シート治療をできるだけ早く一人でも多くの患者に提供するということなる。多くの患者が待つ腎臓、膵臓や肝臓等の再生医療は患者の生活を大きく変えると共に、患者家族や国の負担も大きく改善されるはずである。
 しかし、こうした今後の研究開発や国際展開、啓蒙活動などを経営規模も小さく予算や人材も不足がちの一私大の研究機関やボランティアに背負わせるだけでは荷が重すぎる。充分な対応は望むべくもなかろう。国を代表する「組織工学」再生医療研究センターとしてのバックアップを検討すべきではないか。
 「今そこにある実現可能な日本発の再生医療」に再び国を挙げて取り組むべき時期に来ていると思える。又、世界からもそうした中核的な組織が切望されている。(2017.3.15)