日本発の技術・サービスを世界へ

日本発の技術を世界に:日本企業のブレークスルーを支援する-2008/09


日本発の技術を世界に:日本企業のブレークスルーを支援する(2008年9月)

この9月13日米国医学会の最高の栄誉であるラスカー医学賞に日本人が指名された。「心臓血管疾患の予防と治療に革命を起こした」遠藤章氏。青カビから発見したため「コレステロールのペニシリン」と称され、世界で3000万人以上の人が恩恵を受けている高脂血症薬スタチンの発見者。年間3兆円以上と世界で最も売れている薬でもある。この遠藤教授の発見の恩恵に最も与かった企業は、出身の三共より、この革新的なコンセプトを高く評価し、直ちに取り入れて創薬した米国のグローバルファーマであった。動物薬で最も世界で売れているのは、フイラリアを駆除する薬イベルメクチン。これも日本の北里大学大村教授の発見。ここでも皮肉なことに大きな恩恵をうけたのは、米国のグローバルファーマであった。

振り返れば、製薬・バイオの分野で日本の貢献は大きい。第一回ノーベル医学賞は、1901年「ジフテリアの血清療法」のベーリングに対して授与された。共同研究者の北里柴三郎博士が受賞しなかったのは黄色人種だったからとも言われているが、この明治の時代から日本の医療・医薬は、制度面での課題や矛盾を抱えながらも幾多の献身的な研究者たちの努力で日本において着実に底辺を広げ、ノウハウを蓄積してきている。

最近の日本発のバイオイノベーションでは、マスコミを賑わしている京大・山中教授のiPS細胞の生成。最先端の再生医療の治療の分野では、日本発で世界に注目されている東京女子医大・岡野教授の細胞シート・ティッシュエンジニアリング。角膜や心筋が再生され治療に供されている。

ところが、バイオベンチャー企業全体の時価総額をグローバルで比較してみると、

米国約40兆円、EU約4兆円に対し日本は僅か4千億円にも満たない規模となっている。

又、製薬業界でグローバル上位トップ10にも入る日本企業もない。日本のトップ武田

薬品でも16、7位であろう。なぜ世界で一番売れている人体薬も動物薬も発見した国

の製薬・バイオ企業が世界的に見て二流や三流の地位に甘んじているのか?このままでは、世界のトップクラスの最先端分野も早晩危うくなろう。

日本の医療・医薬に係る規制や制度の硬直性、研究開発の支援体制の貧弱さ、資本市場などビジネス化のインフラの未熟(株式市場の過剰な参入規制、評価能力を十分持たないファンドなど)、製薬・バイオ企業の経営能力の欠如等など折角の優れた研究開発の足元をすくう阻害要因は多い。多くのバイオ企業経営者は、その制約や慣行に挑むより、長いものに巻かれろと小さな世界で満足してしまっているように見える。一方、日本の製薬大手の興味は、日本の研究に目を向け支援するというより海外のバイオ企業を買収することが主眼のように見える。いずこにも阻害要因の「包囲網」をブレークスルーするだけの創意と情熱が欠けているように見える。

バイオの分野だけでなく、日本には世界に通用し又貢献できる可能性をもった企業は数多い。世界に通用するブランドや技術、経営管理や品質、ビジネスモデルなどを持ちながら業績も長年低迷していたり、従来の慣行や制約の中で小さな世界で満足してしまっている企業。

 こうした企業をブレークスルーさせるには、経営コンサルタントでは思考の幅が狭く荷が重すぎるのかもしれない。MBA的管理手法や会計知識だけでは歯が立たぬ。グローバルな戦略コンサルタントでは、コンセプトは兎も角、実践はできるケースは少ない。企業再生手法を持った会社は、期待するところも大きかったが、単なる再生に終始しているように見える。

「日本発のイノベーション」を持つ企業や「世界に通用する」企業が、世界に羽ばたくことを阻害している原因を正視し、それを乗り越えるアイデアを出しそれを実践させる。そうしたことを行うために各業界や専門家集団など様々な分野の能力・異能を集め、新たなブレークスルー・チームが必要とされる時期といえる。