日本発の技術・サービスを世界へ

「マーケティング」の価値をあらためて見直そう-2014/09


「マーケティング」の価値をあらためて見直そう(2014年9月)

ここ5年ほど、「日本の優れた技術や製品を持つ企業を世界に」という主旨でいくつかのベンチャー企業を支援してきた。このところ国のベンチャー企業の支援体制も強化されていて、資金面でも専門家の支援体制でも海外に比べ格段に揃ってきている。マネジメントスキルもかなり現場に浸透してきている。このように企業にとっての制約が低くなっているものの「世界に」までは及ばず、折角の優れた技術や製品を持ちながら足踏みしている企業も多い。

この要因の一つには、経営者が高い「志」を保ち続けることが難しくなっていることが挙げられる。国全体にチャレンジ精神が衰えてきているとすると深刻である。「日本に誇りを持て」という頼もしい若者は多くなってきたが、一方海外に留学してグローバルな知見をという若者はこの10年かなり減っているという。日本という暮らしやすい国に安住して、何も苦労してまで海外に出たくない、冒険はしたくないという保守性が若者に浸透しているとすれば残念なことである。企業にも同様の「今の状況が改善できればよしとする。敢えて冒険はしない。リスクは最小限に抑える。」という現状維持の気風が蔓延してくれば、世界での競争力を失ってしまい企業の存続自体も危うくなる。是非ともこれを打破して志を忘れず、諦めずにチャレンジし続け、若者にも勇気を与える企業であって頂きたいと思う。

二つ目は、「マーケティング力、特にグローバルマーケティング力の欠如・軽視」という点が共通している。縮小する日本市場のみ見ていては、折角の優れた技術も生かせない。「日本発世界に」という時、マーケットの対象は欧米だけではなく、全く商習慣やマーケットニーズの異なる新興国やアラブ諸国などにも目を向けねばならない。

最近、中東で活躍している人に会う機会があった。20年に亘りドバイと日本を往復してビジネスを行っている。中東では日本ブランドへの信頼が大変高い。ドバイでは日本のお菓子「ヨックモック」が不思議な売れ方をしている。葉巻型の菓子を100本200本ドーンと積んだトレイごと数十万円単位で購入する。甘さを抑えた上品な味として、宗教上お酒を飲まない自宅パーティなどで豪華な飾り付けをして使っている。日本の技術力を示す製品として「小型潜水艇」が売れているという。日本では海洋探査用に研究機関に納入するということしか考えないが、中東では未来的なデザインに仕立てて一台2〜3億円。富裕層のパーソナルユースで予想外の売れ行きだという。世界に目を向けると、「優れた技術や製品」が売れるマーケットは、技術者や開発者の思惑とは予想外のところにあることが多い。

日本の優れた技術や製品が世界では意外な使われ方やニーズを呼び起こす。正にグローバルなマーケティング力が求められる時代だ。マーケティングというと、日本では「広告宣伝」とみられ軽視される傾向にある。特に技術者出身社長に強い。「俺の創った優れたプロダクトは売れる。自分で売りに行き、説明して良さを分かってもらう。」というケースが余りに多い。マーケティングは、技術開発や研究とは全く異なる能力である。優れた技術があっても、マーケティング力が貧弱であれば世界どころか今や日本ですら勝てない。「マーケティング力」が自分の持つ「技術力」と同様な、それ以上の価値を持つと冷静に判断してもらいたい。熱い志を持ち冷静な頭脳で「日本の優れた技術を世界に」を是非実現して欲しい。(2014/9/15)